それにしても修学旅行等で突然こんな所に連れてこられた子達も可哀想と言え
ば可哀想なのかも知れないとも思う。大抵の場合、それまでこういったことに
関する知識なり疑似体験なりが全くないまま、或いは授業で数ページの教科書
と資料集を元に１時間程度その「事件」について触れただけ、多少良くてもそ
の旅行の事前準備として数日間の予備日を与えられるだけに過ぎない…という
のが普通だと思うから。その程度の状態で、多くを考えることもないまま、突
然こんな所に連れてこられたって、このモニュメントを目の前にして思うこと
があるだろうか。せいぜい記念写真を撮ることしか思いつかないに違いない。
ここでどうしろとか思うことはない。それは個人の自由だし、例えば修学旅行
生の場合、引率している教諭達も同じ様な振る舞いをしているのだから、逆に
こんなことを考えている方がおかしいのかも…？ 実際、旅行生もカップルも
年配のツアー客も外国人観光客も皆、とても楽しそうだったし、それはそれで
平和を実感できた。こんな所だからこそ、その平和な風景がとてもよいものに
思えた。腹にガスの溜まった死者であふれた川も、新しくなった相生橋からの
眺めは涙が出るほどに静かで平和な水面を有している。時折響く平和の鐘。多
数のビルに広告看板。思い思いの格好をした人々。観光客。慰霊碑。全国の小
中学校から送られてきた折り鶴に色紙の山。平和祈念像。火。澄み切った青空。
少し離れた場所で感じられる静けさ。50年は草木も生えないと言われた当時で
はとても考えられなかった今の有り様と、ここに至る長居道のりの中に生きて
来た多くの人々のことを思うにつけ、幾つもの感情が交錯して、涙をこらえる
のがやっとだった。
暫くぶらりと歩き、たまに慰霊碑や遺跡の説明等に足を止めつつ、まだ日が傾
き始める前にそこを離れた。旧産業奨励館前にあった世界遺産登録記念碑と、
建設省職員殉職の碑を思い出しながら。
ここにはやっぱり一人で来るに限る。二人以上で行くと、自分のペースで動け
ないし、ゆっくり色々考えたりすることも難しいから。ただ今回、遂に資料館
に行く勇気がなかった。あの資料館の展示を、もう一度見る勇気がなくなって
しまった今の自分にひどくがっかりもした。
同時に思い出した。それを知って以来、いつも心に響く一篇の詩を。
「生ましめんかな」
そんなタイトルの詩だった。
広島駅に着くと、そこはもう別世界だった。（謎）
平和の鐘も、もう聞こえる筈はなかった。
