何とかぎりぎりで間に合ったそこは、新宿歌舞伎町の地下。
映画「
リディック」を観に来る人達を横目に地下に降りたところにある劇場。
開演10分前というのに、そこそこ良い席を簡単に確保出来る程の人の入り。
平日のレイトショーということもあるのだろうが、空席が1/3以上あったようで拍子抜けする。
でも日曜日は満員だったというから、やっぱり気になる人は多いんだろう。
カップルを含め若い人達が多かったのがちょっと違和感を感じたけど、週末とかもそうだったらしい。宣伝活動って凄いな。
新宿ジョイシネマ3という劇場なのだけど、あの「
ハリー・ポッターとアズカバンの囚人」を上映しているジョイシネマ1扱い
というのは、相変わらず良く分からない。
と言う訳で、会社での仕事をやっとの思いで振り切って、ぎりぎりで「
華氏911」を観に行ったのだった。
マイケル・ムーア (
Michael Moore) の作品。
ということに特に思い入れはないのだが、あとになってあの前回の言葉を思い出した。
取り敢えず言えることは、確かに最初から最後まで恣意的で偏った内容に違いはないけど、一度は見るべきだということ。
内容云々だけでなく、普通の報道ではされないような本当の映像がそこにはあったから。自分が一番望んでいた映像だった。
出来れば映画で観た方がいいが、ハリウッドの娯楽アクション大作じゃないから、映画の方が良いと思うシーンは僅か。
だから、DVD でもいいと思う。
実際、自分ももう一度観たいと思うが、その時は DVD にしようと思っている。
何故もう一度観たいかと言えば、余りに多くの情報が一気に流れ込んできて吟味というか租借する暇がなかったことが多かった
から。全てを鵜呑みにするつもりはないし、ちゃんと考えたいのだが、情報がどんどん流れるということに加えて、後から入っ
て来た人が目の前の席に座って始終動き回ったお陰で何度も字幕を読みそびれてしまったりしたので、もう一度ゆっくり落ち着
いて観直したいと思っている。
長い長いプロローグが終わって始まった本編。最初はあの日のあのシーン。
驚いたのは映画というメディアであのような表現がなされたということだった。
自分だったら同じことをすると思う。でも商業映画であんな表現が出来るなんて。驚いた。
何故なら自分はもうあのシーンを二度と見たくないと思っているので、あのような表現でなくても自分には同じだったと思う。
そして通常に戻り、忘れかけていたあの紙吹雪のシーンが。
世界貿易センタービルには当時の父親の会社も入っていて、あの日の前に父親が監査に訪れたこともあった。
あの時の紙吹雪の中には、その職場からのものも多くあった筈なのだった。
ブッシュに関するあれからの出来事の中には、知らなかった事実がまだまだ幾つかあった。
それ以外は、ブッシュはやはり思った通り、或いはそれ以上の人物だったということを再認識。
それから思ったのは、カメラは意外と至る所で回っているものだな…ということ。
映画には、前線の兵士や彼の国で死にゆく人々、戦死した兵隊やその家族のそれぞれのエピソードが生々しく映像で現れていた。
敵が見えない戦争で好戦的になり気楽で高ぶる気持ちを抑えられない兵士、人を殺すことで失い掛ける自我を保つ為に必死の兵
士、戦死する直前に書いた手紙の中で何の為にこんなところにいさせられているのか分からないとしながら大統領を呪い再選し
ないことを願った兵士、助けに来た筈がいつも苦情を言われたり攻撃を受けることで現地の人達を憎み始めた兵士、助けに来た
筈が予想外の市街戦により民間人の死体で溢れる町中を通り精神的に参ってしまう兵士、笑いながら現地の人々を虐待する兵士。
爆撃や狙撃により肉をえぐられた人、血まみれの死体、黒こげの死体。米軍兵士の死体を蹴って喜ぶ多くの人々。
彼らの生の映像は大轟音で響き渡る爆弾のシーンよりもある意味圧巻だった。
それらは報道では語られない。正に望んだものだった。
多くの遺族の嘆き悲しみ。
一方でカットインされるブッシュ大統領は真剣味のない表情で、彼らの悲しみを全く理解しないような発言をしていた。
足らないのは語彙だけじゃなくて人間としての感情もだったようだ。
戦場で多くを殺すのは英雄だが、個人を殺せば犯罪者。殺された個人にはそれぞれの人生があり家族や知人がいる。
個人個人に焦点を当てれば戦争の本当の姿が見えてくる。
そういう意味で、こういったドキュメンタリーの存在意義は大きいと思っているし、こういうものが欲しかった。
むしろ作りたいとも思っていた。
でも、どうやら大統領にはこのようなことすらも理解できないようなのだ。信じられないことだが。
自分の子供を国への貢献の為に、軍隊に入隊させイラクに派遣することをしない議員連中の方がよっぽど分かってるんじゃない
のか。あそこまでするのは、ムーアは色んな意味で凄いなと思うけど。
それでも彼のやったことは、国中に無知な国民を増産した。その罪は大きい。
あれからの全ては一体何なのか。その本質を分からない国民があんなに多いとは。
無知の怖さ、そして愚かさが、ほんの少しの映像で語られる。
自分は国外で冷静に見ているから気付くのだろうか。国内の熱狂に揉まれたら違うのだろうか。
彼のやったことの罪は大きすぎる。ただ、そもそも自分がそういうことを理解できない男だとは流石に思っていなかったけど。
それにしても、あれからの米国に、独裁国家や戦前戦中の日本のように密告制度や
特高のようなものが存在しているとは。
自分はこの映画を観る前から、911 をチャンスとして色々な法案を一気に棚卸ししたことや敢えて度ある毎に国内に危険を触れ
回ることで自分の好きなことをしやすく支持率もある程度保つようにしているんじゃないかと思っていた。だからこそ、この映
画というかドキュメンタリーの方向性には強く共感するのだった。
経済と石油の為にだけ、あれからの全てがあったのかどうか、それはこの映画という材料だけでは判断できない。
それでも、観る価値は十二分にある。何故なら、それまでにはその判断する必要性すら感じる材料がなかったのだから。
ムーアはこの作品を娯楽作品だって言ってたけど、やっぱりそうは思えなかった。
勿論、もっともっとブッシュを出せばかなり笑える見所満点のドキュメンタリーになるだろうけど、そしたら
天然コメディアンブッシュの世界デビュー作品になっちゃうだけだし。はっきり言って
ブッシュの日常を追っかけるだけで十分過ぎる程の笑える
映画が出来ちゃうからな。あの
セグウェイに乗って
転んだ最初で最後の人間だったり、阿呆な話題には事欠かないし。
あれが近所のおじさんってだけなら、ちょっと間の抜けた面白おかしいヒトってだけで済むかも知れないのに、よりにもよって
あんなのが大統領。そしてあんなのを盲信するしかないかのような日本の首相。揃いも揃って、悪夢だ。
まあ、それはそれとして、ブッシュらを色々皮肉ったようなところは、面白かったと思うよ。
ただ自分には、悪夢のインパクトが大きすぎて、娯楽と感じる程の余裕はなかった。
とにかく、もう一度観ないと。
疲れて寝てしまったので、ニュースのコメントは書けない。