黒い野良猫。
黒猫が好き。闇に紛れて光る眼。しなやかな肢体。艶のある毛並み。
野良猫が好き。ぶらりと気ままに、常に辺りを警戒し、暢気に鋭く。
小雨の後、午前１時をとうに過ぎた、マンションのゴミ集積所。
黒く艶やか。手足の先だけ白が映える、黒の野良猫。
ゴミ袋を囓ろうとしている。
近寄っても逃げようとしない。尻尾も気にしない。
こんなに人慣れした野良がいるだろうか。
暫く猫を見下ろし続ける。
足で警告しても、その度に警戒し、それでもまた囓ろうとし始める。
仕方なく網をかぶせる。
ルールを守らない人達が、網の上に袋を放置しているのだ。
それでも、逃げようとはしない。
たまに、うずくまろうとする。
寒いのか、お腹でも減っているのか。
問いかけても、答えはない。こちらを見上げて動かない、黒い影。
暫くすると、今度は網の上から囓ろうとする。
流石に、小動物の狩りには役立ちそうな彼の牙も届かない。
会社帰り、15 分もずっと彼を見続けていた。
そして彼は、ついに、立ち去っていった。
もう、こちらを振り返ることもなく。

今日は１日、本当に本当に大変だった。
仕事の流れは何とか良い方向に持っていったのだけど、昼間の自分
ですら本当に疲れた。やることも余りに幅広く、深く、多すぎて、
完全に回らない中、全体をあそこまで持って行けたのは…奇跡だ。
更に色々な誤解やトラブル。精神的にかなり消耗した。お陰で強引
にセッティングした飲み会も明日に延期。
それだけじゃない。
携帯に届いたメールは、ほんの少しは予想したものの、昼間のポジ
ティブな自分でなかったら、完全に息の根を止められていたような
内容だった。素の自分だったら、どうなっていたか。多忙過ぎる仕
事に忙殺される道がなかったら、どうなっていたか。
そして、深夜過ぎに帰宅。
少し気持ちを落ち着けながら来たところに、今度はとどめの一撃。
まさかこんなことが…。
昼間の自分が殆ど消え失せていたところに、余りに痛かった。
余りに悲しく、辛く、辛く、悲しく、自分のせいじゃないのは分か
りすぎるほど分かっているのだけど、やはり悲しさの余り死にたい
と本気で願う。
絶望には程遠いと、理性ある自分は言う。
でも感情は理性とは別物。
やはり、同類は何もかもうまくいかない。
そこに、何らかの形で、たとえ表面上は逆だったとしても、頼ろう
としてしまうのは弱い証拠。
それでも、今の状況は、この数ヶ月で最後のとどめのハンマーを
脳天に食らわされたかのようなきつい衝撃。
感情も何も沸き起こらない。
ここ数日の間の目標が全て飛んだ。
ただ、ひたすらに悲しいのだけど、何も感じない。

生まれ変わるなら、黒い猫になって、自然の厳しさを象徴するかの
ような漆黒の夜の闇の中に消えていきたい。